新書

昆虫の世界へようこそ海野和男『昆虫の世界へようこそ』
 虫を撮り続けてるこの人ならではの文章。カラー写真も入ってる。

 コノハムシのオスはメスよりも葉に似ていない。しかしメスは飛べないのにオスは飛ぶことができる。コノハムシの場合はオスに飛翔能力があることで、広範囲に遺伝子交換ができるのだろう。けれどコノハムシはメス単独でも卵を産み増えることができるという。ここまで葉に似て、これ以上変化する必要がないとするならば、オスは不要ともいえるようにも思う。このことは見事な枝への類似を見せるナナフシでも同様だ。ナナフシではオスがほとんど発見されていない種類まであるのだ。

 メスは葉っぱに似てて安全。オスは危険を冒して遺伝子交換に動き回る。けど基本的にオスいらない。オス、カワイソス。他の生物もこんな感じか。アンコウみたいなのがいいな俺は。
 
宗教の経済思想保坂俊司『宗教の経済思想』
 これも面白かった。近代社会の発展には商業の発展が必要で、商業の発展には商業を肯定する宗教が必要。商業の発展にともなって商業を肯定する宗教が発展した。各宗教の経済観がどんなふうか紹介してる。

 大乗仏教の特徴に、在家主義、つまり世俗の生活を行いつつ仏教的な修行を行うことが可能である、というより日常生活こそ真の仏教修行の道である、という極めて現実主義的な思想がある。これはキリスト教世界におけるルターやカルヴァンの思想を一五〇〇年以上も先取りした思想ということができる。(P.131)

 とか

<…>筆者は仏教の救済(悟り)を住宅所得になぞらえて、ローン返済型宗教と呼んでいる。家(悟り:往生)を我が物とするために、一心にローン返済のために働くサラリーマンのようなものである。
 一方、ユダヤ・キリスト・イスラームのような救済宗教では、神がいずれこの家をあげるからそれまで家賃(信仰や義務)を払いなさい、とて入居時に契約してくれる、いわば「棚ボタ」型の救済構造である。だから、契約を信じ神の愛にすがって家が持てるまで家賃を払い続けるわけである。しかし、この家賃と神が最終的に家を下さることとは、直接的な関係はないというのがキリスト教の考えである。そして、契約を実行すれば、もらえるとするのがイスラームである。その中間に、カルヴァンの思想がある。つまり、神はあらかじめ誰にあげるか決めておられるが、それは秘密である。しかし、一生懸命家賃を払っているとなんとなく分かる、という具合である。
 また、初めから持ち家を持っている、すなわち救済というようなことを考えない宗教もある。神道である。神道では、初めから持ち家であり、ローンを組んだり、家賃を払う必要は無い。しかし、家を維持するためには、努力が必要であり、その努力がいわゆる祭りなどの神事である、と考えている。(P.153)

 みたいなことが、いろいろ具体的に書いてある。
 締めが松下幸之助。

<…>結局松下は、特定の宗教を持たなかったのであるが、しかし、宗教の重要性を彼は終生説き続けた。
 その後、彼は「企業もまた宗教のような意義のある組織になれば、人々はもっと満たされ、もっと働くようになる」と考えるようになった。(P.206)

 もっと働くようになる……。

 彼は自ら若者の技術習得のための機関を設立し、その学生に向かって「諸君は松下電器のために働いているのではない。自分自身と公衆のために働いているのだ」と訓示している。彼の仕事への姿勢がよく分かる一文である。しかも「販売は重要且つ高貴な職業である」として、職業の公共性や倫理性を持つことを教え、さらにその職業の聖化、つまりルターらの召命思想に通じる精神を教え込んだ。
 このような松下の経済倫理思想は、組織の末端にまで行き渡り、戦争を挟んで急激に発展する。そして一九五六年に彼は、売上四倍増の目標を立てる。しかし、それは「名声や儲けを求めるためのものではなく、あくまでも、製造業者が社会に対して負っていると私が信じる使命を達成する手段である」ということであった。
 もちろん一歩間違えば、宗教的な情熱で利益を稼ぎ出そうとする、理論のすり替えにもなりかねないものであるが、松下の信念は、この目標に向かい終生ぶれることはなかったようである。(P.207)

 昨今の儲かりゃいい的な風潮に対置させて、松下には倫理観があったという扱いだろうけど「一歩間違えば」が怖いっす。
 全体通して思うのは、昔からみなさん「儲かりゃいい」とは思わないんだなということで。自分のやってることがおかしかったり、社会的に認められないのは耐え難いというか、少なくともイヤなんだなと。いくら儲かってても。俺も「儲かりゃいい」とは思わんが、みんながホントにそうなのかね。
 アムウェイなんかも「みんなが幸せになる」的なことを言うし、その方が「もっと働くようになる」んだろうしな。
 あとセン経済学と二宮尊徳の話も興味深かった。

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