カラスヤサトシ『おのぼり物語』

おのぼり物語(バンブーコミックス) (バンブー・コミックス)カラスヤサトシ『おのぼり物語』
 単行本出た。オススメです。作者がマンガ家になるまでの話。
 29歳の誕生日を前に、マンガ家を目指し、何の当てもなく上京してくる。しかもバイトもアシスタントもしないと誓いを立てて(『カラスヤサトシ 2』に書いてあった)。マンガの仕事がまともにあるわけじゃない。誰とも会わない日が続く。なかなかヘビーな状況だが、基本4コマ形式だし、のんびりしてる。ラストの方は本当にシリアスだけど。
 こういう、おもろ哀しい話って昔はわりとあった気がする。“ペーソスギャグ”って言葉を思い出した。上京がテーマになること自体、昔風かも。かと言って古臭くない。今のマンガ。いい味出てます。

霊媒師いずな

真倉 翔+岡野 剛『霊媒師いずな』1巻。『地獄先生ぬ〜べ〜』のスピンアウト作。ぬ〜べ〜好きなんで単行本楽しみにしてた。
 青年誌になってどのようにエロくなったかはアキバBlogの記事で既に知ってる人も多いかと。いずなのピンチには「あの、いずながこんななっちゃってる!」的な興奮がある。
 けど、1話完結の読み切り連載で、レギュラーキャラは主人公一人だけ。1回しか出てこないサブキャラがエラいことになっててもピンと来ない。知らん人が脱いでても、「ああ、この人は脱ぐ人なんだな、青年誌だからこのくらいやるよな」で済んじゃう。やっぱ、ぬ〜べ〜はキャラの魅力と少年誌の制約があってこそのエロさだったなあと思った。
 話も大人向けにグレードアップ。放火アイドル、手鏡で覗きなど、時事ネタを取り上げつつ、かつての説教臭に代わって社会派な面が。ぬ〜べ〜を今の青年誌に置き換えるとなるほどこうなるのか、って感じ。新興宗教ネタの話はなかなか複雑なオチになってて面白かった。
 ただ、真面目に扱ってるとはいえ、個々の題材そのものに深く突っ込んでるわけじゃなくネタの域を出てないんで、元ネタが深刻なほどちょっと不謹慎な感じも。
 なんか全体に中途半端な気がする。真面目だけど、エロでちょっとだけギャグ入って、みたいな。青年誌的マジなのか、少年誌的コメディーなのかどっちやねん。受け取り方に困る。ぬ〜べ〜とは別作品とわかっちゃいるが、やっぱぬ〜べ〜にあった“いいチームでほのぼのやってる”感がないのは寂しい。もっとシリアスに振れれば一人でもいいんだろうけど、それじゃ他の作家がやってそうなものになりそうで。
 まあでもホントぬ〜べ〜好きなんで、『ツリッキーズ ピン太郎』も好きなんで、岡野・真倉両先生応援してますんで、期待してますんで、つーかこんなうるさいファンはいらんか。
 
五月女ケイ子のレッツ!!古事記『五月女ケイ子のレッツ!!古事記』
 すっとぼけてて、面白くて、過剰におちゃらけたりはしてなくて、わかりやすい。これ、本当に古事記入門にいいんじゃないか。マンガが変なとこは解説でフォローしてるが、解説もすっとぼけてたりして、またオモロい。
 古事記、上・中・下巻の上巻分だそうで続きも出してほしいが、この本出るのに3年かかったそうだからムリだろうな。

テーマ・ドリブン

■先週スピリッツで始まった山田玲司の連載が香ばしいんだけど、スピリッツはウケりゃなんでもいいんすかね。
 
■こないだ書いたとおり、戦後民主教育どっぷりで育った。学校の先生が言うには、反戦・平和、人権、愛、友情など「人間」が描かれたものが良い作品。
 一方、中学生の俺を魅了したのは、ヤマト、ザンボット、ガンダム、タイムボカンシリーズ、がきデカ、筒井康隆などだった。
 ヤマトなんてタイトルの時点でどうしたってダメ。軍靴の足音響きまくり。教師が認めるわけがない。ザンボット・ガンダムは普通のロボットアニメじゃないんですよ、深いんですよと言ってみたところで、戦争をエンターテイメントにしてる時点でダメ。
 実際のところ、ザンボット・ガンダムは見てもらえさえすれば、最終的に否定するにせよ一定納得してもらえるんじゃないかと思ってた。問題はうしろの方。左寄りの先生は、笑いとか娯楽とかに対し、「それも必要」なんて取って付けたみたいな評価をする。「人間」を描いたものより明らかに下に位置付けながら。笑いと娯楽が必要にしても下品でめちゃくちゃな(だから面白かった)がきデカと筒井康隆を認めるわけがない。
 自分が好きなものを軽んじられた中学生の俺としては、どうも気に入らない。テーマで価値が決まってしまうんなら、小説だのマンガだの音楽だのってのは、ただの手段じゃないか。手段に堕してしまっていいのか。それは小説だのマンガだの音楽だのに対して失礼じゃないのか。愛とかも深いかもしれんが、何が面白いかわからないが面白いってのも深いんじゃないか。テーマで語りきれないものがあってこそじゃないのか。
 とか思いながら現在に至るわけで、アレなテーマでマンガを手段化する山田玲司には眉間に皺が寄りまくり。

赤灯えれじい

赤灯えれじい 15 (15) (ヤングマガジンコミックス)きらたかし『赤灯えれじい』15巻。アマゾン、書影まだないじゃん。
 前巻の続きで盛り上がっていって終わるのかと思ったら、案外さっくりそれは片付いてしまった。「茶番や」「そんなもんバカップルのしょーもない内輪もめやんけ」ってシゲのセリフはマンガ全体を否定しかねないセリフで、こういうのがさっくり入るとこが凄いよな。あと、笑いで抜くとこと。
 花火打ち上げるんじゃなく、じっくり地面に染み込むような終わり方がこのマンガらしくて良かった。やー、いい話や。

万祝と赤灯えれじい

万祝 11 (11) (ヤングマガジンコミックス)■望月峯太郎『万祝』10巻11巻
 2冊同時発売で完結。と思ったら11巻、薄!
 現代で海賊で冒険って、設定がムチャなんだけど、逃げはナシで正面から青年誌のマンガとして成り立つとこまで持ってたのが凄い。少年マンガは読めなくなっちゃったおっさんでも、マンガらしいムチャさを楽しめた。パンティー丸見えも良かった。
 俺的には10巻の真ん中、111話の辺で余韻を残しつつ爽やかに終わってほしかった気もする。あとの部分は説明的って言うか。そんで111話で終わるのと、119話で終わるのとでは、落ちる場所が違う。作者の落としどころはどっちにしても同じかもしれんが、読んでる側としては119話の方が遠くに落ちる。遠い方が潔くてこのマンガらしい。でも俺は111話で近いとこに落としてほしかった。
 
赤灯えれじい 14 (14) (ヤングマガジンコミックス)きらたかし『赤灯えれじい』14巻
 一方こっちは、ハリウッド映画的なスペクタクルはない。でも話は凄く豊饒に感じる。
 タイトルの由来になった交通整理の現場がリアルなのはともかく、風俗誌編集部とか、町工場とか、ここまでリアルじゃなくてもいいように思う。けど、そこら辺の妙なリアルさが生活のリアルさとか、キャラのリアルさに繋がってる。こんな風なディティールの突っ込み方したマンガって、案外少ないんじゃないか。
 スケールのデカい話は細部を吹っ飛ばす。心情を掘り起こす話は自意識過剰に繋がる。作者の主張を抑えて、現実的な小さい世界の描写を重ねて、いい話、現実にありそうでない話を現実的に織るってマンガを俺は他に読んでない。
 次で完結ってことで、予想以上に青臭い展開になってますけども、ラストを楽しみにしてます。

栞と紙魚子

栞と紙魚子の百物語 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)諸星大二郎『栞と紙魚子の百物語 』。このシリーズも、もう6冊目か。ちょっと新展開。まったり楽しい。
 初期に比べ脂が乗ってないとはいえ根っこの方はなかなか濃くって、こういうのをあっさり風味で描けちゃうのは凄いと思った。
 
■ブックオフでトニーたけざき『岸和田博士の科学的愛情』12巻。10年前の本だけど、どういうわけか発売を見逃してて、なんとなく「出ないなー」と思い続け、そのうちオチもないまま終わったものだと勝手に思い込んでた。んで、こないだ久々に読み返したあと検索かけたら1冊足りないじゃん。というわけで10年経ってようやく最終巻を読んだ。

ディエンビエンフー

ディエンビエンフー 3 (3) (IKKI COMICS) (IKKI COMICS)西島大介『ディエンビエンフー』3巻
 思った以上に仕掛けが多い話だなあ。しかし、仕掛けが仕掛けと見えちゃうところが相変わらずアレなんだけど。つって全然読み違えてるかもしれんが。
 いろいろ込み込みでオモロいです。期待してます。期待してるってわざわざ言うのは「外さないでくれよ」とヒヤヒヤしながら読んでるってことで、その辺がアレなんだけど。