ヒミズとシガテラ

■マンガ喫茶で古谷実『ヒミズ』『シガテラ』読んだ。
 『ヒミズ』は「なるようにしかならない」で、『シガテラ』は「なるようになる」、みたいな話だった。シガテラのラストは地味っちゃ地味だけど、こうでしかないんだろう。
 シガテラには明るいノリもある。不幸の予感はあるものの、決定的にマズいことにはならない。一応ハッピーエンドで終わる。けどもどっかで、ヒミズみたいな方向に、なるようになってしまう可能性はあった。ただこの話はこう終わるように描かれたということかもしれず、だから後味は良くない。
 
 どっちも人殺しが身近にある。
 ヒミズでは主人公が人を殺してる。殺すには理由があったし、殺したことで話が進んで、オチもある。だからこの殺しについては、わりとすっきりする。全編シリアスでしんどい話だが、こういうのには慣れている。けど友人の方は単なる強盗殺人で、発覚しないままうやむやになってる。これは気持ち悪い。
 
 人を殺しちゃって、でも発覚してなくて、不安やら罪悪感やらに悩まされる夢を見たことがある。
 よく見る夢がある。気がつくとなぜかパジャマで外出していて、バツの悪い思いをする夢。誰もパジャマについて何も言わない。なんかバレてないっぽい。でも俺は自分がパジャマだと知ってるから、おどおどしてる。早急に着替えなきゃいけないが、どうしよう。
 普段あまり意識しないが抱えてる、「俺はみっともない」っていう不安みたいなものが、なんのヒネリもなく夢になって何度も出てくる。パジャマなんて持ってないのに。
 そんで人殺しのあとの変な気持ちと、パジャマのバツの悪さが、よく似てる。
 
 「あのヤロー殺してやる!」とか思って、頭の中でシミュレーションが展開することはある。実行には移さないが、頭の中では起きている。
 犯罪はともかく、悪いことを実際にやってたりもする。「あの時、あの人に悪いことした」とか。恥ずかしい失敗も含めて、過去にバツの悪いことがたくさんある。
 子どもの頃は親から禁止されてることがたくさんあった。ダメだっていうのにやっちゃったりした。バレないとバツの悪い秘密になる。いいことか悪いことか判断が付かないけど、いけないんじゃないかと思って秘密にしていることもある。自分からしたんじゃなく、いけないことに出くわすこともある。子どもの頃の記憶は、そのうち夢だかなんだかわからないぐちゃぐちゃになって、バツの悪い思いが奥の方に沈んでいく。
 なにかおかしなことになって、分別ある大人であるはずの俺が、夢だか現実だか分からない境目で、大人にふさわしい規模の大変なことをしでかしちゃうんじゃないかっていう不安がある。いや、普段そんな不安は抱えてないけど。そういうお話があれば、いくらかキャッチーでリアリティーのある話だと思う程度にはある、ということで。酔うと記憶なくすし。
 
 シガテラの人殺しは、主人公と距離のあるところで起きてて、はっきり描かれてもいない。主人公自身は普通の人だから、自分じゃ異常なことをしてない。最後の方でアートみたいなことをやりかけても、結局失敗してる。
 でもバツの悪いことはやってる。小っこいけども、浮気だとか、携帯で撮った彼女のマンコとか。彼女の方もみっともない浮気みたいなことをしてる。
 とりわけ後味が悪いのが、友人が主人公の彼女に薬を飲ませてレイプしようとする話。きっかけは主人公が撮った携帯のマンコ画像を、友人が偶然見てしまうこと。バツの悪い秘密が外に漏れる。友人はいいヤツで、悪いヤツからレイプの話を持ちかけられたとき一度は怒ってる。彼はそんなことするヤツじゃない。なのに踏み切ってしまう。境目を超える。彼女の方は薬で眠ってる。現実が分からない状態にある。結局彼は踏みとどまるが、共犯者の方は見てないところで続けようとする。で、その結果がはっきり描かれない。姦られてないと解釈するべきかもしれないが、曖昧さが気持ち悪い。境目の上でむにゃむにゃしたまま、もの凄いバツの悪さを抱えて、このエピソードはさっくり終わってしまう。
 いいヤツである友人は見た目も良くて、レイプを持ちかけたそのまた友人は見た目からしてゲスに描かれてる。これは一人だったりするのかもしれない。よくある人の中の天使と悪魔みたいな。
 
 ヒミズの主人公は自分の不幸を人殺しとしてかたちにするが、シガテラの主人公は「人を不幸にする」存在ということになってる。バツの悪いものが、外に沈んでいく。外も主人公の世界。
 シガテラの人殺しは、いじめっ子がキチガイを殺すというもの。いじめっ子は悪いヤツでバカで嫌われ者だが、結構かっこいい。身に降りかかる不幸を文句も言わずに引き受ける。ヒミズの主人公に近い。こいつが殺したおかげで、キチガイを連れてきたいじめられっ子は、やっかいごとから逃れられた。シガテラの主人公は、このいじめっ子に対し「お前とは関係ない」と叫び続けることで、ヒミズの主人公が望んでも得られなかった普通の生活を手に入れる(だからシガテラの主人公は普通以上に幸せであってはならず、地味なラストに落ち着く)。
 単純には「いじめられっこが危ない目にもあったりしたけど可愛い彼女のおかけでちゃんと大人になった」って話だが、「バツの悪いものは外に捨てて大人になりました」でもあるのかな。最後にドカティ欲しいって言うのは、若い頃の毒を取り戻すってことだが、矮小にも思える。なんにせよ、「いい話」にはなりようがない。
 面白かったけども、それは自分の不安と同調する部分があるからで、俺の場合こういう種類のリアルに向き合うのはよろしくない感じがする。作者は大丈夫なのかな。

2 thoughts on “ヒミズとシガテラ

  1. 最近シガテラを読んだのだけど、ほとんどがレイプされたのかされてないのか曖昧だと言ってるけど、俺を受け入れないのかとか、だんだん…とかの言葉からすれば挿入しようとしているわけで、少なくとも陰部は触れ合ってるし、だんだんのくだりは完全に挿入してはいないけど先っちょは入ったってことだから、完全にレイプが成立してる。
    なんで曖昧だとするのかが理解できない。

  2. 読んだのがかなり前なので忘れてしまいましたが、
    成立してるかということなら成立してるんでしょう。
    曖昧だと感じたのは、やるだけ全部やってたとしたらあんまりな話なので、
    読んでるこっちからするとやってないことにしたい、
    はっきりとは描かれてないし、ということだと思います。

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